監督メッセージ
「薄墨の桜」というのは、岐阜県根尾川の上流にある桜の古木で、推定樹齢1300年余。天然記念物に指定され、継体天皇のお手植えという伝説があります。私とこの桜の巡り会いはまったくの偶然のことでした。岩波映画作品の「狂言」のロケーションで訪れた根尾村の能郷白山神社に翌年の花時に再訪したのがきっかけでした。人気のない山麓で絢爛たる花をつけている巨木の姿を見て、私は胸が震えるような感動を受けました。千数百年生き続けていて、今なお花を咲かせているとは、とても信じがたいことです。「この桜を撮るだけで、短く美しい音楽のような映画ができる」とそのとき思いました。
撮影を開始したのはそれから3年後。当時、岩波映画の社員だった私は、カメラマンとともに、会社の仕事の合間を縫って桜のもとに通いました。そして4年間をかけて、とうとう私がこの桜に対して抱いていた気分を映画として表現することができたのが、この作品です(羽田澄子)。