映像製作・演出 佐藤斗久枝

 映像教材「介護のしごとの道しるべ」は、介護の現場を丹念に取材・撮影し、 現場の実践から「専門的なケア」「質の高いケア」の実現に役立つ学びを探 そう、という試みで、2014年にシリーズ第1作を作りました。
 今回はシリーズ第2作。しかしこの映像を撮影したのは、第1作よりも前の2008年で、もともと記録映画の企画としてスタートしたものでした。当時、別の記録映画製作のスタッフの1人として特別養護老人ホームを訪れていた私は、そこで、ケアによって高齢者の生活が大きく変化するのを目の当たりにしました。病院で胃ろうをつけた方が口から食事ができるようになった、寝たきりだった方が再び自分で歩くようになった、昼夜の区別なく歩き回っていた方が、落ち着いた暮らしを取り戻した、などなど。私は、どうして変化が起こるのだろう、ということに強く関心を引かれました。
 幸い、その特別養護老人ホーム「サンビレッジ新生苑」(運営 社会福祉法人新生会)の取材協力を得ることができ、ひとりの利用者、近澤さんという方のケースを追ってみることになりました。
 ケアの現場にカメラを持ってお邪魔してすぐに気づいたのは、スタッフは単に生活のお世話をしているのではなく、利用者をよく見て、いろんなことを考えてケアにあたっているということ。その観察が、気付きが、分析が、変化の下に横たわっている、ということでした。ケアの現場で起こることを見て、私は「ケアというのはなんと興味深い仕事だろう」と目を開かれ、それを記録することに腐心しました。
 その後、撮影した作品は一般に公開する機会を得ることなく年月が過ぎましたが、今回、このしばし眠っていた作品を、映像教材として役立ててもらおうと思うに至り、「介護のしごとの道しるべ」の第2弾として発売することにしました。
 映像教材として発売するにあたり、記録映画スタイルの「本編」に加えて、映像を勉強材料としてより役立ててもらうために「解説編」(解説書+付属DVD)をつくりました。「解説編」では、本編の中から個々のケアの映像をピックアップ。近澤さんのケアに携わったスタッフの視点で、本編では捉えきれなかったケアのポイントや意味を探り、冊子にまとめました。
 私が取材中によく言われたのは、介護のしごとは対人援助ゆえに『ただひとつの正解はない。しかしいくつもの答えや可能性がある』ということ。ですからこの映像教材は、その答えのひとつを現場の取り組みから見出したものです。これをひとつの材料として、お使いいただく方々の知識や経験から様々な視点を加え、発展させながらご活用いただけることを願っています。
 最後に、介護の生の現場を取材・撮影するということは、施設のスタッフと利用者であるお年寄り、そしてそのご家族のご理解、ご協力なくしては全く不可能なことでした。深く感謝いたします。